医師のペシミズム
昨年より毎月開催している深圧体験会。
定員3名の少人数向けの会ですが、お陰様で毎月参加申込をいただいており、深圧のことを知っていただく機会を提供させていただいていることに感謝です。
さて、その体験会にご参加いただいたある方とお話しをしている中でお聞きした言葉にとても暗澹たる気持ちになったことがあります。
それは、その方が病院での診察の際に医師に言われたこと。
「(このままだと)将来歩けなくなりますよ」
・・・
非常な通告です。
要は、(そのときのレントゲン上での骨の状態だけをみて)このまま放置していたら痛みに苦しんで歩くことすらままなくなるのだから手術をしましょう、という最後通牒のようなものです。
ちなみに、その方は(痛みが出始めてはいるものの)現在は杖を使わずに普通に歩くことができています。
治すための選択肢は手術しかない。
残念ながら、いまだにこのような偏った“ネガティブ・プラシーボ”を誘発させるような言葉をかける医師がいるようです。
【参考】
プラシーボ(効果)とは、日本語では「偽薬効果」と訳されていますが、これは文字通り、薬ではないものを薬であるとウソをついて飲ませると、患者は実際に薬を服用したかのような効果を示すことがある、という意味です。ネガティブ・プラシーボはその反対的な反応であり、ネガティブな“薬”(情報)を信じることによって体調を悪化させてしまう効果のこと。
半年前のわたしのブログ『痛みの不安心理~ネガティブ・プラシーボ反応からの脱却~』 にも記しているのですが、アメリカの著名な健康医学者であり、医学博士でもあるアンドルー・ワイルさんは、ベストセラーとなったその著書『癒す心、治る力』(角川文庫)で、現代社会における医師のペシミズム(悲観主義)に警鐘を鳴らしていました。
同書にて、否定的なプラシーボ反応の究極の実例 として「ブードゥー死」(ブードゥー信仰の呪いによる死)を例示しつつ、「現代社会(注:出版当時は1995年)においても、病院・診療所・開業医などで同様な呪いが毎日かけられていることに、われわれは気づいていない」と述べています。
「悪化の一途をたどる」とか、「治ることは期待できない」「これ以上できることはない」といった言葉には、人間の自然治癒力を無視した「ペシミズム」を感じざるをえません。
最初に引用した患者さんのお話しを聞く限り、残念ながら、いまでに旧態依然としたペシミズムに基づいた診療によって患者さんの将来の希望を失い、場合によってはネガティブなプラシーボ反応によって痛みを悪化させているケースが少なくありません。
実際に、最近の研究では痛みに対する恐怖が痛みをさらに生み出していることがわかってきています。
痛みがあると誰でも不安になるものですが、それに追い打ちをかけるような悲観的な言葉を投げかけられると更なる痛みが誘発されることがあるのです。
医療の世界に足を踏み入れれば、患者の立場としては、知識と情報量で圧倒的に優位な立場にある医師の言葉を信じざるを得ないケースがほとんどだと思います。
だからこそセカンドオピニオンの意義があるとも言えますが、いずれで得られたオピニオンにしても(受ける側として)権威主義に甘んじざるを得ないことが少なくないと思います。
了見の狭い時代遅れの常識に基づいて一方的な悲観論を押し付けるなんて受け入れ難いことです。
「歩けなくなる」というのは、(手術しか選択肢がないから)手術をしないのであれば結果的に放置せざるをえませんよ、だから将来どうなっても知りませんよ、と言っているようなものです。
ですが、もちろんそんな一方的な脅しに屈するわけにはいきません。
自分の痛みは、どのような経緯を経ていまの状態に至っているのか?
骨の変形の歴史は?
いまの痛みの原因は炎症性なのか?筋肉性なのか?
これからどういう治療の選択肢があって、いま何をすればよいのか?
現実をしっかりと視る。
経過と症状を見極める。
レントゲン診断だけでは決して判断できないことです。
当院のような小さな施術院が存在することの意義はそこにあることをあらためて感じつつ、これまで培ってきた数多くの症例に基づいた“正しい情報”(新しい常識)を発信していく使命をより一層強く感じている今日この頃です。
炎症の山の向こうに希望あり!
2019年6月2日
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